Monthly_delivery_HUCOS vol.16 『卒FIT』→ 蓄電池という選択
太陽光発電の設置から10年が経過すると、市場価格よりも高い固定価格での買取期間が終了するいわゆる「卒FIT」を迎えます。売電価格<買電価格となることから、太陽光で発電した電気はこれまでのように売るよりも、使う・貯める「自家消費」にシフト。今回蓄電池を導入したHUCOSリノベモデルハウスでの実例もお伝えします。
Monthly_delivery_HUCOS vol.16 『卒FIT』→ 蓄電池という選択
そもそもFIT制度とは?
日本では、経済産業省によって2012年にスタートした太陽光や風力などの「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のことで、「Feed-in Tariff(フィード・イン・タリフ)」の頭文字を取ってFIT(フィット)と呼びます。「~を与える,入れる」と言う意味の Feed in と「関税、関税率、料金表」と言う意味の Tariff という言葉からなり、再生可能エネルギーを導入した際のコスト負担を買取価格に「入れ込んだ料金体系」という意味です。
再生可能エネルギー、すわなち「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」の5つのいずれかからつくられた電気を、電力会社が “一定価格” で “一定期間” 買い取ることを国が約束する制度で、再生可能エネルギーの普及を目的に、世界ではドイツで1992年に初めて導入され、その後世界50ヵ国以上に広がりました。
FIT制度では、再生可能エネルギーでつくられた電気は、電線を通じて電力会社に送られ、電力会社はそれを法令で定められた価格・期間で買い取ります。そして、その費用の一部は、電気を使うすべての方から“賦課金”という形で徴収されていて、固定価格で買い取るための原資になっています。これがいわゆる“再エネ賦課金“です。正式名称は「再生可能エネルギー発電促進賦課金」といい、国だけではなく、電気を使うすべての人で再生可能エネルギーの導入・普及を支えていく構造となっています。再エネ賦課金は、毎月の電気料金に含まれており、1kWhあたりの単価は毎年決められ、全国一律です。ちなみに、2024年5月分から2025年4月分までの単価は3.49円/kWhで、電力使用量が400kWh/月の一般的な世帯では、月額で1,396円、年間では16,752円もの負担となります。
一般家庭におけるFIT制度と「卒FIT」
FIT制度は一般住宅に設置した太陽光発電による電気の買取にも適用されます。太陽光発電でつくった電気を自家消費しきれずに売電する場合、市場価格よりも高く買い取ってもらえます。買取期間は、住宅に設置されることが多い出力10kW未満の場合は10年間です(事業者が設置することの多い出力10kW以上の場合は20年間)。なお、FIT制度開始当初の2012年度の売電単価は42円/kWhでしたが、太陽光発電の設置費用が年々下がっていることと連動し、その後売電単価は毎年のように下がり、2024年現在は16円/kWとなりました。そしてその価格が10年を超えると、7円/kWh(中部電力の場合)にまで下がってしまいます。ここで、どのくらい売電額に差があるか試算してみましょう。
参考として、環境省のデータによると、5kWの太陽光発電を導入している住宅が年間で発電する電力量は全国平均で約6500kWh。そのうち余剰売電比率の平均はおよそ70%のため、売電できる年間の電力量は、6500kWh×0.7となり、約4500kWhとなります。2024年度に太陽光発電を設置した場合の売電単価(16円/kW)から、年間の売電収入を割り出すとこのようになります。
【売電収入(推計)】
FIT期間中・・・年間売電量 4500kWh × 売電単価 16円/kWh = 年間売電収入 7万2000円
卒FIT後は・・・年間売電量 4500kWh × 売電単価 8円/kWh = 年間売電収入 3万6000円
年間では3万3600円の差ですが、10年間では36万円もの差になります。このように「卒FIT」後は買取単価が非常に安くなってしまうので、余剰電力をどう活用するかというのが今回の本題です。
ちなみにFIT制度が始まった当初の2012年に設置した場合の売電収入はこのようになります。
FIT期間中・・・年間売電量 4500kWh × 売電単価 42円/kWh = 年間売電収入18万9000円
今年設置した場合と比べると、年間で11万7000円の差、10年間だと117万円の差になります。
買取期間終了後の選択肢
①売電先の変更
卒FIT後も、電力会社(新電力も含む)と契約することで売電を続けることができますが、大手電力会社(長野県の場合は中部電力)の場合は、7〜8円/kWhとなるので、より単価の高い新電力への切り替えという方法があります。資源エネルギー庁のHPで各都道府県の売電事業者の一覧を見ることができ、長野県においては、24事業者の選択肢があります(2024.10.31現在)。セット割りの条件だとよりメリットをだしている会社もありますが、売電のみの条件だと10〜12.5円/kWhといった感じです。仮に7円/kWh → 1 2円/kWhになったとして、先ほどの年間の売電収入にあてはめると、
年間売電量 4500kWh × 売電単価差額5円/kWh = 年間売電収入差額2万2500円
となり、結構大きな差となります。
②家庭用蓄電池の導入
2つ目の選択肢は、自家消費の割合を高めることです。発電している日中に電気を自家消費するというのが一番わかりやすいのですが、例えば自宅でのテレワークの時間が増えるなど生活スタイルが変わらないのであれば、日中に使用する電気の量はほとんど変わりません。となるとやはり考えられるのが、日中に発電した電気を「家庭用の蓄電池」に電気を蓄える方法です。
初期費用はかかりますが、太陽光で発電した電気はもちろん、電気料金プランによっては、電気代が安い深夜帯に充電しておくということも可能です。また太陽光パネルの設置から10年以上経過すると、パワーコンディショナーの交換時期とも重なります。蓄電池を付けるにはさらにもう一台パワコンディショナーを付けることになりますが、1台で太陽光発電と蓄電池の両方を動かすことができるハイブリッド型に切り替えるという選択もあり、こちらの方が変換ロスを抑えられ電気を効率よく使えるのでおすすめです。
各メーカーから販売されている家庭用蓄電池の容量は、2kWh前後のものから16.6kWhまでありますが、容量は家族の人数や生活スタイルによって選ぶ必要があります。価格の相場は工事費も含み、20万円/1kWhが目安となります(例えば7kWhであれば約140万円、10kWhであれば約200万円)。
③V2Hの導入
もう一つ、電気自動車(EV、もしくはPHEV)への充電という方法もあります。太陽光発電が稼働する日中に家に車がないと電気を貯めることができませんが、もし車を利用するのは週末や平日の買い物時のみ等の場合は、日中により電気を貯めることができるので、蓄電池よりもおすすめかもしれません。ちなみに、EVの充電容量は家庭用の蓄電池と比べるとかなり容量が大きいので(例:日産 アリア/91kWh)、家庭用充電池の代わりに「V2H」(※)を導入すれば、災害時の非常用電源としても極めて優秀です。「V2H」の導入費用は機器のスペック等によりますが、工事費も含み100〜200万円ほどです。
※V2Hとは「Vehicle to Home」の略称で、EVに搭載されている大容量バッテリーに蓄えられた電気を自宅に戻して有効活用する方法。
蓄電池、V2Hの補助金は?
蓄電池、V2Hともに初期費用が高額なので、補助金をうまく活用しましょう。長野県、各市町村、そして国でも補助金を用意しており、併用可能な場合がほとんどです。申請期間や予算額が決まっているので、導入のタイミングも大切です。
長野県 「既存住宅エネルギー自立化補助金」 蓄電池/15万円、V2H/10万円の補助
長野市 「長野市温暖化対策推進補助金」 蓄電池/5万円、V2H/6万円の補助(今年度は受付終了)
須坂市 「須坂市新エネルギー導入設備設置費補助金」 蓄電池/設置価格×1/10(上限10万円)の補助
千曲市 「既存住宅エネルギー自立化補助金」 蓄電池/設置価格×1/10(上限10万円)の補助、V2H/設置価格×1/10(上限5万円)の補助
経済産業省 「DR補助金」 蓄電池/3.7万円/kWh(補助率1/3以内、上限60万円)
初期費用0円で始める蓄電池
補助金をうまく活用できたとしても、蓄電池の導入はやはり高額です。太陽光発電もですが、蓄電池単体も0円で導入できる、リースという選択もあります。
中部電力の「カテエネリース」の場合、蓄電池プランは月額14,700円から導入可能です(リース期間15年)。メリットとしては、初期費用不要なのですぐに導入できること、期間中は自然災害での故障修理も含め無償対応してくれること、そしてリース期間終了後は無症譲渡されることです。ただ、費用面ではやはり一括購入よりも支払い総額が大きくなってしまいますので、前述の補助金の活用とともに一括での購入かリースかの選択はきちんと行う必要があります。
HUCOSリノベモデルで、カテエネリースの蓄電池を導入
築130年の古民家を2011年にリノベーションした際に太陽光発電を設置したHUCOSリノベモデルも卒FITを迎え、数年が経過しましたが、この度「カテエネリース」にて蓄電池を導入しました。太陽光発電のパワーコンディショナーの交換時期だっということもあり、その交換費用も含めて0円にて工事が完了しました。
今年の9月分の電気使用量を前年と比較すると以下のようになります。
2023年 9月 電気使用量/362kWh 電気代金/8,014円(基本料金、燃料費調整額等除く)
2024年 9月 電気使用量/138kWh 電気代金/2,604円( 〃 )
もちろん、発電量や電気使用量には昨年と比べると誤差はあるかと思いますが、売電しなくなった金額を差し引いても、月に5,000円ほど、年間だと60,000円くらいの電気代負担減となりそうです。今後、エコキュートも入れ替えて、湧き上げ時間の一部を夜間から日中へと変更することによって、もう少し金銭的なメリットが出てくると思われますし、なにより太陽光発電をこれまで以上に活用することで省エネにつながります。